神様からのプレゼント

録画した深夜番組『ねほりんぱほりん』をみていて、久しぶりに「生産性がない」発言のことを思い出した。

当時はこの発言が大変世間を賑わせた。
その時、私も奇妙な気持ちになった。
この言葉は現代社会のやりきれなさを痛感させるな、と思った。

年頃になったら結婚して子供を産んで健康に長生きする。それが幸せ?

その答えはYESでもありNOでもあるだろう。
「普通」は結局幻想で、端から見れば普通に幸せに生きてるような人でも内面は深い闇を抱えてるかもしれない。

そんな事考えても所詮本当のことなんて分かんない。

人はわかった気になるのばかり得意。私もそうだけど。
自分の手の届く範囲で見えるものしか見えてない。
そのくせ見えてるものがすべてだと、正しいのだと思い込むのが得意なだけ。


話が脱線したが、「生産性がない」発言から芋づる式で思い出した記憶がある。

高校の時の全校集会。
肌寒かったから秋から冬にかけてだったかな。
体育館で開催されたのは、産婦人科医の先生による講習会。

今思えば性教育の一環だったのかな。
事前にアンケートがあり、講習にやってくる産婦人科医の先生に訊きたいことを紙に書いた。書かされた。自分はなんて書いたか忘れたけど。

講習の冒頭でその先生がいくつかのアンケートの内容に答える流れになった。

その中で、ある男子生徒からの質問があった。

匿名だったけれど、確かにその場にいた大勢の高校生の中の一人だったんだろう。

彼は、自分が同性に好意を抱く人間であること、それを周りに知られて馬鹿にされて孤立していることを匿名のアンケートで告白した。

そして、「命の尊さ、避妊の大切さ」とか「子供を産み育てる素晴らしさ」がテーマの講習の先生に、自分のような人間はどうすればいいのか、と疑問を投げかけていた。

もしかしたら、そのアンケートは全くの創作で、面白半分で講師を困らせようとして書かれたものかもしれない。周りもそういう反応をしてた。

でも、私はなんとなくそういう茶化した内容ではないんじゃないかと、この場にいる誰かの悲痛な本音なんじゃないかと、そう思った。

この問いに対して講師の先生は、それでも子どもを産むことは素晴らしいことですよ、と言った。


トンチンカンだなぁと思った。


この人は立場上そう言うしかなかったのかもしれない、と今なら思う。

でも確かにあの瞬間、大人に深く失望したのを覚えてる。

ひとりの男子生徒の気持ちや叫びなんて、世間の、普通の前ではあっけなくなぎ倒されて無かったことにされるんか、と思った。

それ以降の講習の内容は頭に入ってこなかった。


そのかわり私はその頃読み終わった窪美澄の『ふがいない僕は空を見た』を脳内で回想していた。

作中で、田岡さんという男性が登場する。
彼は、自分の性的指向に苦悩する。
自分のことをとんでもない人間だと言い、主人公達に親切に振る舞うが、彼の本質は彼の気持ちを裏切っているのかもしれない。

そのアンバランスさに凄く惹かれた。
その息苦しさ、生き苦しさに私は酷く共感した。

彼は自分の性的指向のことを神様がくれたいらないオプションだと言う。

確かにそうかもね。

普通に異性を好きになって、普通に結婚して、お手本みたいな道を歩ける人間であれば悲しい思いも苦しい思いもせず、周りの大切な人を傷つけ失望させることなく生きていけたのかもね。

でも神様から与えられてしまったそのオプションが彼に備わっているからこそ、田岡さんは人の苦しみや弱さを受け止められる。そして、アンバランスな魅力を放っている。

時代は変わっているし、昨今は学校の授業でLGBTQの話も出てくるらしい。

性的指向の「当たり前」が崩壊して、誰を好きになっても、誰も好きにならなくても、色んなすべての人の心に自由が訪れればいいなと願う今日この頃。