愛の国
中山可穂の『愛の国』を読んだ。
相変わらず壮絶なまでに魂のこもった小説だった。
同性愛を禁じられた国家で戦うミチル達。
この人の作品はどれも壊れるほど深く愛することの美しさと悲惨さを描いていて、その強烈なエネルギーの果てにある虚無や絶望を突きつけてくるところが、好きだ。
同性も異性もこれほど強く愛したことがない私には、ミチルの狂おしい愛は理解しがたい。
この3部作を読むとトオルに同情する気にもなる。才能を愛し惚れ込んだ女も、自分との間に命を宿している大切な守りたい女も、彼を置いていくのだから。残酷な運命だと思う。
しかもその大切な二人が心中し、ひとり取り残される。
気が狂いそうになるだろう。
生きることも愛することもシンプルな事のはずなのに、互いを傷つけずに愛することも生きることも出来ないのは何故なのだろう。
傷つけ、傷つき、それでも愛してしまうどうしようもなさ。
人間が嫌いで関わりたくない、ひとりがいいと思っていても、それでも人と関わらずに生きていくことは出来ないから。
本当は、人を好きになって愛されて満たされたいし、孤独は嫌い。
それでも強がって誇りをもって生きることの美しさ。
そんな高尚な魂をもてる人になりたいと、そう思わせる作品。
中山可穂は、これまで出会った作家の中で一番魂をかけている物書きだと私は感じた。
この人以上にすべて注ぎ込んですり減らして物語を紡いでると感じる人はなかなかいない。
こんなにも美しくて心を震わす文章が私にも書けるのならば悪魔に魂を得るのもやぶさかではない。
そう思わせる魅力。
小説の力を再認識した瞬間だった。